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「へえ、それであんなに悄々(しおしお)としているんですか、気の小さい子と見えますね。先生何とか云っておやんなすったんでしょう」
「それでどうです上野へ虎の鳴き声をききに行くのは」
「しかし愚(ぐ)じゃないか、知りもしないところへ、いたずらに艶書(えんしょ)を送るなんて、まるで常識をかいてるじゃないか」
「何、これが時代思潮です、先生はあまり昔(むか)し風(ふう)だ99lib•netから、何でもむずかしく解釈なさるんです」
「ええちょっと用事が出来たんです。――ともかくも出ようじゃありませんか」
「そうか帰るのかい、用事でもあるのかい」
「そう。それじゃ出ようか」
「ええ、聞きに行きましょう。実は二三日中(にさんちうち)にちょっと帰国しなければならない事が出来ましたから、当分どこへも御伴(おとも)は出来ませんから、今日
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は是非いっしょに散歩をしようと思って来たんです」
「さあ行きましょう。今日は私が晩餐(ばんさん)を奢(おご)りますから、――それから運動をして上野へ行くとちょうど好い刻限です」としきりに促(うな)がすものだから、主人もその気になって、いっしょに出掛けて行った。あとでは細君と雪江さんが遠慮のない声でげらげらけらけらからからと笑っていた。
「本人
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は退校になるでしょうかって、それを一番心配しているのさ」
「それならそれでいいとして、当人があとになって、急に良心に責められて、恐ろしくなったものだから、大(おおい)に恐縮して僕のうちへ相談に来たんだ」
「何、不道徳と云うほどでもありませんやね。構やしません。金田じゃ名誉に思ってきっと吹聴(ふいちょう)していますよ」
「いたずらは、たいがい常識をかいていまさあ。救ってお藏书网やんなさい。功徳(くどく)になりますよ。あの容子(ようす)じゃ華厳(けごん)の滝へ出掛けますよ」
「虎かい」
「そうだな」
「そうなさい。もっと大きな、もっと分別のある大僧(おおぞう)共がそれどころじゃない、わるいいたずらをして知らん面(かお)をしていますよ。あんな子を退校させるくらいなら、そんな奴らを片(かた)っ端(ぱし)から放逐でもしなくっちゃ不公平でさあ」
「そんな悪るい、不道九九藏书徳な事をしたから」
「なに金田だって構やしません、大丈夫です」
「何で退校になるんです」
「君も大分(だいぶ)迷亭見たように呑気(のんき)な事を云うね」
「それもそうだね」
「とにかく可愛想(かわいそう)ですよ。そんな事をするのがわるいとしても、あんなに心配させちゃ、若い男を一人殺してしまいますよ。ありゃ頭は大きいが人相はそんなにわるくありません。鼻なんかぴくぴくさせて可愛いです」
「まさか」
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